『レイズトレード』とはどのようなトレードなのでしょうか。レイズトレードを実践しているチョコレートブランド「Noel Verde」オーナーの高橋力榮と申します。実践している私から、レイズトレードについて、様々な観点から説明させていただきます。また、似たようなトレードで、フェアトレードやダイレクトトレードなどもありますが、これらとの違いについても解説してゆきます。
レイズトレードは育つことが目的
英語表記では "raise trade"で、この"raise"とは「育てる、高める」という意味があります。まさにその意味の通り、レイズトレードとは、関係する全て(人・もの)が育ってゆくトレードのことです。
フェアトレードやダイレクトトレードの考え方をさらに発展させたトレード方式で、循環型の継続可能な世界を実現してゆくためにも必要となる考え方です。まさに、今、この『レイズトレード』という考え方が地球には必須となっているといっても過言ではありません。
レイズトレードについて本題に入る前に、フェアトレードやダイレクトトレードについて前提知識があるとわかりやすいと思いますので、各トレードについて説明してゆきます。それぞれにどのような違いがあるのでしょうか?
フェアトレードとは?
一般化しつつあるフェアトレード
フェアトレードとは公正な貿易のこと。貧困のない社会実現のために、経済的にも社会的にも対等ではない関係でも、対等の立場で取引を行います。生産者や労働者の適切な労働環境や安定した生活をサポートできる公正な取引や対価を保証することが目的です。
フェアトレードの歴史は長く1946年頃から始まったと言われております。このトレードの考え方は、砂糖やコーヒーなど食品にも広がりましたが、衣類等にも適応されており、現代では世界に広く浸透してきています。また世界にはフェアトレード団体や企業もたくさん存在しており、今後もフェアトレードという概念は一般化されてくるものと考えられます。
フェアトレードの課題
ただ、フェアトレードの問題は対等な価格保証ではあるものの、対等に扱えるほどの品質向上も必要となることです。品質悪のものを単純に今までよりも高価格で取引したとしても、今度は購入者側の負担が大きくなってしまいます。絶妙なバランスで成り立っているのがフェアトレードのように考えています。
ダイレクトトレード
フェアトレードの課題を解消
フェアトレードの考えは公正を軸に考えられたトレードでしたが、公正な価格とは何か?曖昧なところがありました。その問題点を解消するべくダイレクトトレードという方法が生まれました。取引を行う上で、購入側も販売側の状況を直接、目で見て体験して、対価の正当性を意識できるようになったのです。
購入者は使用する産地に直接訪れて、自らの目で生産地や生産者、生活環境、生産物、流通を把握し、トータルのバランスを判断した上で、その対価なる価格を交渉し、購入するように。このトレードのポイントは、対価の正当性がはっきりしたこともそうなのですが、購入者が販売者(生産者)に直接会って理解し合うことでした。
相手の顔が見える。相手の状況がわかる。直接の関係性や信頼こそがこのトレードの基準となっています。取引する上では当たり前に感じるようなことが当たり前になっていなかった。ダイレクトトレードを通じて、この当たり前を取り戻しているように感じています。
ダイレクトトレードの一歩先
一方で、取引が終わると満足してしまう、また次回の取引も同品質で、というのが人間の性質。そのうち甘えが出てくる可能性もあります。この考えを改め、お互いにさらに高みを目指そう!関わる全ての人も成長させてゆこう!という風潮が出てきました。この考えこそ、この記事でメインで扱っています『レイズトレード』なのです。
レイズトレードの在り方
『レイズトレード』は、フェアトレードやダイレクトトレードと同様に、市場価格よりも高い、適正な対価を生産者である農家に還元します。一歩進んだトレードの在り方というのは、産地に住み、農家の方々の隣に居て、一緒に生産方法の向上を考慮したリ、時には共に農業を行ったりと、隣にいて、育て、一緒に育ってゆくというものなのです。
レイズトレードを採用することで、訴求力および国際競争力を自然と身につけることができます。なぜなら、発展途上国と言われる国の農家にレクチャーをし、市場のメカニズムを理解していただき、サプライチェーンの全体の中での、生産者たちの立ち位置を伝えると共に、品質が止まることなく向上していくというしくみがあるからです。
そうして「自分たち立っていける、自分たちで考える」農家や加工場にしてゆくこと。これこそが真のサステナビリティーです。つまり、サスティナブルな社会を実現するためには、まさに社会はレイズトレードを待ち望んでいるのだと思います。
レイズトレードの歴史とその背景
私はカカオを専門としていますので、カカオの世界を中心に歴史と背景について説明させていただきます。1700年代、エクアドルなどのカカオ生産国はプランテーションの時代でした。その時代には、壮大さを意味する"グラン"という言葉を使い、グラン・カカオと呼ばれる時代がありました。外国からエクアドルに大きな資金が投入され、広大な土地を使い、単一生産で工業的に生産がはじまったのです。
そして、時代の流れとともに、カカオの先物取引(現時点では売買の価格や数量などを約束だけしておいて、将来の約束の日が来た時点で売買を行う方法)が導入されることとなります。その結果、カカオの価格は全く関係のない事象や運営する側の背景より決定されるように。
最終的に、農業者たちは外部環境要因により決まる価格が割りに合わないため、農業をやめました。そして、プランテーションの農園は急速に消滅してゆきました。今となっては小さな個人農家がメインとなっております。
それでも、ごく最近まで残っていた大企業の資本が投下された大規模農園では、カカオ農園用の自社研究所を設け、カカオの遺伝情報分析、カカオの栽培に必要な栄養素の肥培試験やその判定、評価まで企業秘密として管理し、生産性の向上、施肥の最適化を目指しておりました。
しかしながら、その蓄積された有益なカカオに関する農場技術は企業秘密だったので、当然、外部に開示されることなく、今では失われてしまいました。それゆえ、エクアドルのカカオの農業技術のデータベースを問い合わせても、国営の農地試験場(INIAP)、また農牧省(MAGAP)においても、全くそれらしい情報が無いという状況となっております。
このように、カカオについては農業として昔から全く成長していないという背景があります。これからは成長してゆく農業、または関わる人・もの全てが成長してゆく必要があるのです。つまり、『レイズトレード』というしくみが解決策なのです。
レイズトレードが作り出す未来
農業技術の改善、改良を農家と一緒に模索してゆく。
征服国から植民地へという上から下へのプランテーションの時代のような縦のつながりではなく、探し出せた正解とも言える農業技術を、関わるカカオ農家や農業協同組合と共有し合い、一緒に発展してゆく。横のつながりこそが大変重要なのです。
より収穫量の上がる農業技術や有機農法を伝えることにより、農作物の品質が向上していきます。その結果、高単価での交渉、最良のバイヤーとの出会いなどが夢から現実になり、生活の向上につながります。
また、農業後継者たちが希望を持って農業経営の継続を望む、そんな未来への素地を関わる人、ものが一丸となって作ってゆくこと、これがレイズトレードの描く未来です。
どうしてレイズトレードなのか?
レイズトレードの描く未来は、他の方法でも実現できるのかもしれません。しかし、レイズトレードではないといけない理由があります。
それは、自身を成長させてゆくことこそ、幸せにつながっているからです。
カカオの観点で見ると、カカオ豆の加工(発酵、乾燥など)の技術が遅れているところも見うけられます。エクアドルという国では、農業は教育を受けていない最下層の方がするものと見られております。他の業種含め、エクアドルの教育は日本の教育とは全く違い、驚くほど遅れております。ゆえ、農業技術に関しても自分たち自身で改善改良を行う意識が全くなく、間違った農法であっても、ただそのやり方を頑なに続けている人が多くいます。
結果、カカオ豆自体の遺伝形質は非常に素晴らしいのに、品質管理や収量の安定において国際競争力を持てていないのです。各農家が成長を望まない限り、レベルアップは見込めないのです。
農家さんたちに現在の立ち位置を伝え、モチベーションを上げてゆく。モチベーションに対して、そこに手を差し伸べる。農家さんは学びを得て、気付きをともなった実践をした結果、本当の成長が起こり、またモチベーションが上がってゆく。
こうした良いスパイラルを起こせるのがレイズトレードです。
続いては、実際にレイズトレードを採用しています、弊社のチョコレートブランドNoel Verde(ノエルベルデ)の活動も含めながらレイズトレードを追ってゆきたいと思います。
レイズトレードとNoel Verde
ノエルベルデではレイズトレードを採用しております。カカオやチョコレートの売り先としてのマーケットを確保しつつ、農家との横のつながりで、共に農業実験を重ねて前進し、そして発展しています。こうした好循環のなかで、次世代の農業生産者が希望を持ってこれからの未来においても取り組んでゆけるよう意識しております。
Noel Verdeの目的は「佳きものをはこぶ」こと。
Noel Verdeの意味でもあるグリーンサンタクロースさながら、自然環境を守りながら、美味しい自然の恵みをみなさまへお届けするために活動しております。
環境に優しい農法を指導し、土壌からカカオの木、カカオの最終商品までを一貫して見る。こうした姿勢はレイズトレードに合わせたものというよりは、結果的に、レイズトレードになっていったという方が正しいかもしれません。
ノエルベルデのプロダクトは、関わるみんながハッピーになってゆくプロダクト。未来のプロダクトと未来のトレード、まさに最強のコンビだと思っています。
レイズトレードの利点
レイズトレードの利点を挙げるとすると、それは農業生産の現場での学びを共有できることです。
レイズトレードではない現場での農業試験や研究は、横のつながりでの共有が全くと言って良いほどなされません。大手の企業の様に、優れた農法はその企業や大農園のものだけになってしまっているというのは今も変わらぬ事実。
エクアドルに存在する、さまざまで多種多様な素晴らしい遺伝子源を持つカカオ。一度、その種が途絶えてしまうと二度と戻ることはないと言われております。
レイズトレードは育て、みんなで育ってゆくものですが、育つためにもまずは横のつながりでの共有が必要となります。まさに、これこそが利点であり、今後のカカオの発展にも必要なことだと考えております。
知識の独占をせず共有してゆく。果てはその種を守って行くことに繋がってゆく。それがレイズトレードの利点です。
現状のレイズトレード
農家さんのカカオ豆の収量を上げるため、ノエルベルデは現在、肥料の効果が今よりも上がる農法を農家さんと共に試験しております。また、カカオ豆の発酵を改善するため、温度計でマークし計測、データを読み取りながら、発酵品質の向上を目指して試験を行っております。
また、全く新しい資材の投入なども行い、積極的にカカオの栽培および発酵の技術の改善を行い、農家の農業に対する知識と意識を高めております。
レイズトレードという言葉を単純に広めることよりも、まず行動して体験をしてもらい実現できるということを知ってもらう。地道ですが必要な過程だと考えております。
レイズトレードの課題
大きな課題は2点、レイズトレードで生産されているプロダクトの量が少ないということ、そして、レイズトレードという言葉の認知度の低さです。
プロダクトの量については、わたしたちのような存在が増えていき、農家の活性化をサポートしていく他ありません。これからも魅力ある商品開発を続けて行き、より多くの方々にお届けできるようにしていくことが課題解決への道です。
また、認知度については、消費者のみなさまには、まず、おいしいエクアドルのチョコレートを召し上がって楽しんでいただきたいと思います。そして、レイズトレードというものに少しでも興味を持ってもらえたら、こんなに嬉しいことはございません。
課題はこの他にもたくさんありますが、ひとつずつクリアーにしてゆく他ありません。
レイズトレードを採用しての実感
レイズトレードを採用している私が実感するのは、販売市場と生産現場と地域社会との絆の回復です。チョコレートという加工品を通じて、みなさんでしあわせなつながりを回復してゆけることです。
関わるみなさんの心が温まってゆくのを肌で感じることができます。レイズトレードならではの感覚なのかもしれないと思っております。
レイズトレードの今後
SDGsに溶け込み、自然な形でレイズトレードが世間一般に浸透し、その言葉を意識しなくても、レイズトレードの考えで行動する世界になってゆくことを願っております。
Noel Verdeの今後の展開として、カカオ豆の取引、その加工と流通だけではなく、エクアドルの他の産品にも同様にレイズトレードでみなさまにお届けしてゆくことを考えております。
個々のしあわせの総体が、その個々のしあわせを増幅します。
今後、レイズトレードのキーワードである”横のつながり”を広めてゆき、他のすてきな農業産品にアプリケーションし活用してゆきます。
まとめ
レイズトレードについて、あらゆる観点から説明をさせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。レイズトレードについて少しでも興味を持っていただけましたら嬉しいです。
レイズトレードは、まだまだ新しい取り組みです。
ほんのちいさな一滴でも、やがて大きな潮流のなかの一滴となることを願いながら、日々を奮闘して、実現と到達をくりかえして、前進をつづけてゆくものとなれるよう、邁進してまいります。
最後になりましたが、ここまでお読みいただきありがとうございました。
レイズトレードで作っているノエルベルデのチョコレートをぜひ召し上がってみてくださいね。そして、カカオやカカオ製品もご覧いただけましたら嬉しいです。
下のボタンから紹介ページに行くことができます。
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